2012年2月9日木曜日

なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?


『9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方』は50万部を突破したそうです。すごいですね。私も読みました。著者の福島文二郎さんはこう述べています。
「ディズニーランドで働いている人のうち、正社員は2000人程度。それに対して、アルバイトが1万8000人程度います。しかも、正社員の中には、バックオフィス業務を担当する人間もいますから、ゲストが直接顔を合わせるのは、ほぼ100%がアルバイトなんです。」(参考:中経出版「特集ページ」より)
2011年4月の顧客満足度調査によると「顧客期待/知覚品質/クチコミ」でNo.1、全体でも2位と高い顧客満足度を維持していることがわかっています。東京ディズニーリゾートに行ったことがある人ならば、そのサービスレベルの高さはよくご存知かと思います。(参考:サービス産業生産性協議会ニュースリリース「2010年度日本版顧客満足度指数の発表」
■なぜディズニーは9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できるのか?
ビジネス書や自己啓発書でも「ディズニー」は定番中の定番で、ディズニーテーマパークに存在する行動規準「SCSE」、すなわちSafety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)に基づく、スタッフのコーチングの話を書いた本はたくさん出版されています。カストーディアル・キャスト(清掃員)についての感動物語は有名ですね。こうした本が数年に一回、ベストセラーになるのもファンが多い証拠なのかもしれませんね。(参考:オリエンタルランドHP「行動規準SCSE」
しかしながら、ディズニーを真似て成功した話はそれほど多く聞きません。いくらディズニーのホスピタリティは「相手に対する主体的な思いやりだ」と言われても、なかなか行動にはうつせないものなのだと思います。それを実現する仕組みは何か? ビジネス書をいくら読んでもわからなかったのですが、ディズニーキャスト(アルバイト)募集サイトを見て「これか!」と思いましたのでNOTEに書きたいと思います。
(引用元:東京ディズニーリゾート キャスティングセンター「キャスト特典」ページの一部)
ディズニーにはファイブスタープログラムという表彰制度があります。同制度はファイブスターカードと呼ばれるカードを、上司が素晴らしいパフォーマンスをしていたキャスト(従業員)に手渡しますカード1枚で毎月抽選で非売品のノベルティーが当たるようになっており、5枚たまると年に数回行われる「ファイブスターパーティー」へ招待されるそうです。(資料を参考に記述しておりますが、もしディズニーリゾートのキャストの方がいらっしゃれば、現在でもこのインセンティブになっているのか教えて下さいませ)
さらに、キャスト同士がお互いのパフォーマンスをたたえ合うスピリット・オブ・東京ディズニーリゾート、長時間勤務を表彰するサービス・アワード・プログラムでは、上記にあるようなピン(バッジ)が贈呈されます。英語・中国語・韓国語でゲストサービスができるキャストにはランゲージピンというものあります。
こうした仕組みによりアルバイトであるキャストはさまざまな「フィードバック」を時間を置くことなく受けることができます。NOTEの読者の方なら「ピン」ときている方もいらっしゃるかもしれませんが、こうした仕組みはゲームの基本的な構造である「プレイ&フィードバック」のループ構造に似ています。カードやピンをもらえればもらえるほど、もう一枚カードを、もう一個ピンをもらおうと、よりホスピタリティのあるパフォーマンスをしようと心がけるようになるのです。(参考:NOTE「楽天レシピはなぜクックパッドに勝てないのか?」
また、バッジで達成感を可視化するのはゲーミフィケーションの定番テクニックでしたね。また、「ファイブスターパーティー」はいわゆる航空会社などのファーストクラス・ビジネスクラスの優先搭乗や空港ラウンジ(VIPルーム)にも似た「アクセス(Access)」の権利を与える形式のインセンティブとなっており、これもゲーミフィケーションにおける高度な動機づけのテクニックの一つでした。ひとまずここでは「ディズニー」がゲーミフィケーションかどうかは置いておきましょう。後ほど見解を述べます。(参考:NOTE「なぜゲーミフィケーションは効果的なのか?」
■公開から6か月で1000万件の累計ダウンロード数を突破した「LINE」は即レスが基本
「プレイ&フィードバック」においては、そのスピードの速さが特に重要です。たとえば、最近、私は「LINE」というアプリで家族との連絡のやり取りをするようになりました。
このサービスはベッキーのテレビCMで認知度を上げ、公開から6か月で1000万件の累計ダウンロード数(iPhone/Androidアプリ総計)を達成したそうです。(参考:ORICON STYLE「公開6ヶ月で1000万DL達成 『LINE』が週間1位に」
このアプリで「すごい!」と思ったのは「スタンプ」という機能です。「絵文字」に近いのですが、「スタンプ」のすごいところはそれを一つを送るだけで用が足りてしまう点です。しかも「スタンプ」は「絵文字」と違いメール本文とは切り離されて存在してます。つまり、「スタンプ」は押すとその「スタンプ」だけで相手に送信されるのです。
使ってみた感想は、コミュニケーションの取り方がメールやSMS(Short Message Service)とは圧倒的に異なると感じました。こちらがスタンプを一つ押せば、相手もスタンプ一つで素早く返ってくるため、基本的に即レスです。どんな言葉を返そうか悩む時間を必要としないのです。
Facebookを使う人が多くなったので、みなさん感じていることかもしれませんが、「いいね!(Like)」を押されるとうれしいものです。「いいね!」が速ければ速いほど、量が多ければ多いほどうれしいことでしょう。「いいね!」は相手のメッセージを「読んだよ」という意味で押すことも多く、わざわざメールで返すほどではないときにはとても便利です。フィードバックを送る敷居を極端に下げているという意味ではFacebookの「いいね!」も「LINE」の「スタンプ」も同じです。一方。Twitterもリツイートなどのフィードバックで相手が読んだかどうかを知ることができますが、読んだかどうかわからないのがTwitterの特徴でもあります。結局のところ、フィードバックの速度が速くて量が多いソーシャルメディアに人が集まるものなのかもしれませんね。(もっとも、Twitterも2011年11月のバージョンアップで「アクティビティ (activity)」が追加され、「@つながり」を見れば誰にフォローされたか、誰がツイートを「お気に入り」に入れたかがわかり、フィードバックの可視化が進化しました)
前置きが長くなりましたが、「ディズニー」における人材マネージメントの基本はフィードバックを速く、量を多く、目に見える形にすることにあるのだと思いますこれが、ディズニーの9割がバイトでも最高の顧客満足度を維持できる秘密の一つではないでしょうか。
■今トレンドとなっている「ゲーミフィケーション」は何が違うのか?
さて、「ディズニー」はゲーミフィケーションと呼んでもいいのか。結論から言えば、定義はありませんのでどちらでもよいと思います。「AKB48」はゲーミフィケーションなのではないか? スタンプカードはゲーミフィケーションなのだろうか? という議論と同じです。ポイントは、今さまざまな事例が出てきているトレンドワードとしての「ゲーミフィケーション」とどんな点で違うかを知ることでしょう。一つだけ考えてみたいと思います。それは「コンピュータが介在する」という点です。
「メールが来ないと不安」という人が若者に多いと言われていますが、理由を考えたことはありますか? 私見になりますが、もしかしたら「ゲーム」というメディアに親しむ世代「ジェネレーションG(「The Generation Game」の略=ゲーム世代)」だからなのかもしれません。なぜなら、「ゲーム」は人ではなく「コンピュータ」が相手をしてくれるメディアだからです。コンピュータ・ゲームはボタンを押せばコンピュータが何らかのフィードバックを返してくれます。大人気のアプリゲーム「おさわり探偵 なめこ栽培キット」で画面をさわれば、「なめこ」が収穫できるのといっしょです。
一方、メールであれば、相手である「人」が返してくれないと始まりません。テレビなどのマスメディアも当然ながらフィードバックがほとんどないメディアです。「ゲーム」に慣れ親しんだ世代にとって、何らかのフィードバックがすぐに返ってこないことは非常に気分の悪いことなのだと思います。「堪え性がない」としばしば指摘される所以です。
「コンピュータが介在する」という点について、ゲーミフィケーションと呼べる典型的な例で説明してみます。アディダスジャパンが2011年12月に発売した「miCoach CONNECT」です。
いわゆるランニングをサポートするアプリですが、センサーによって記録された心拍数や速度に応じて、その人に合った運動プログラムをデザインしてくれます。そのプログラムに応じて、スマートフォンのアプリ=コンピュータがユーザーを「コーチング」してくれるのです。コンピュータが常にフィードバックを返してくれることが、ランニングという行動を継続的なものとすることに非常に重要な役割を果てしています。(参考:日経経済新聞「人間が情報端末に、ヘルスケアの進化促す近未来探訪(1)センサーとクラウドで生活が変わる」
「プレイ&フィードバック」のフレームワークから見れば、ユーザーがプレイしたことに応じて、一定のルールをもってコンピュータがフィードバックを返すのがゲームでありゲーミフィケーションではないでしょうか。今、日本でもトレンドになりつつある「ゲーミフィケーション」についても、「コンピュータが介在する」かどうかの視点で見ると、ある一線が引けるのではないかと思います。しかしながら、「ディズニーはゲーミフィケーションだ!」「AKB48はゲーミフィケーションだ!」として議論することにも深い意味があると思っていますので、ぜひ考察を続けましょう。

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