
彼と私の付き合った2006年から09年までは、アメリカで不動産バブルが発生・崩壊し、日本にもその余波があった。彼はその時代の変化をユニークな感覚で見つめていた。前回の寄稿では、佐佐木氏の金銭観と人生観についてまとめたが、今回は彼のビジネス観を、私の解釈を最小限にして再録してみる。同意しない点が多いものの、新しい気づきを得られることもたびたびあった。
「リスクを取るのが商売、他人の金で勝負する奴と一緒にするな」
彼は商売で自分だけの「こだわり」があった。すべてを失った結果を見れば滑稽さも伴うが、その言葉を聞いてみよう。桃源社は08年時点で存続していた。巨額の負債はどうなったのかと私は聞いた。
「不思議に思うでしょ。あんなにたたかれたのに倒産してないんだから。いろいろとしがらみがあるから、つぶしたがらない人もいる。つぶすことになったら、私は見たことをあらいざらい話すつもりだから困る人もいるだろう。「どの程度負債があるのか」と、いつも聞かれるけど「霧の中」ということにしておいてください。ふっふっふっ」。
ライブドア社長の堀江貴文氏が世の中の注目を集めていた06年1月に、佐佐木氏と六本木ヒルズで会った。私は堀江氏に取材した時に「佐佐木さんと似た虚無的なところがある」と感想を抱き、佐佐木氏に伝えた。すると、こんな返事をした。
「ばかいっちゃいけないよ、一緒にしないでくれ。俺は自分の金でリスクを取って商売したんだ。今は人の金を利用しようとする奴が跋扈してる。堀江なんてその典型さ。彼は外資の金使って踊っただけ。ただし姿は違うけれども、俺のように「高転び」すると思うよ。この国では「出る杭は打たれる」ものさ。国や銀行、闇の世界にカネをむしり取られるだろうな」
「高転びする」という予想はその通りになり、その1週間後に堀江氏は逮捕された。
「日本人がババを引く形でバブルは崩壊する」
2006年に東京では地価が持ち直すミニバブルが起こっていた。周囲に建設中のビルの多かった東京・六本木ヒルズで、佐佐木氏は次のようなことを言った。2008年のサブプライムローンのショックを予見していたかのようだった。
「バブル最盛期から地価は3分の1で2000兆円が失われた。こんな金、日本にはないんだよ。今の時価の上昇は海外発のもので、金の流れが止まれば終わり。アメリカの不動産の加熱ぶりは危ういね。日本のバブルみたいだ。アメリカの市況が崩れたら終わる。それは近いよ。日本人がババ抜きのババを引く形で不動産バブルは崩壊するんじゃないかな」
以下は多少ゆがんだ陰謀論めいた考えではあるが、佐佐木氏は外国マネー主導の日本の不動産ビジネスを苦々しげに話していた。
「俺は「バブル」という言葉が嫌いだった。資産価値の拡大と言っていた。失われた富2000兆円は本当にもったいない。あの時代、日本人誰もが潤ったじゃないか。拡大にブレーキをかけるにしても、やり方はあった。政府は景気に急ブレーキをかける最悪の政策をやったんだ」
「不良債権はプロが見れば宝の山。おいしいところはみんな外資に取られた。俺のつくったビルも、開発した土地もだよ。悔しいね。3年前に面白いことがあった。ある外資が俺に日本の窓口になれと話を持ちかけてきた。京都の神社仏閣や老舗旅館の財務内容を調べ尽くして「安く買える」とね。俺は断った。日本人だからね。けれど金になりそうな不動産を詳細に調査しているのはたまげた。日本のダメな不動産屋たちは負けると思ったよ」
「バブルの処理なんて終わっていないさ。今の財政悪化はバブル処理に金をつぎ込んだ結果だろ。数年のうちに火をふくさ。ヒルズとか、汐留とか、最近の大規模の開発を見ると、高層ビルが城壁みたいに囲んで外資とその「手先」が事務所を構えている。植民地みたいだ。バブル敗戦の後で、ハゲタカの国際金融資本に「軍隊なき占領」を受けている。奴らは儲からなくなったら別の国に行ってしまうよ。日本人に何も残さないで」
「俺に500億円あったなら…日本を面白くできるのに」
彼は町づくりにもこだわりがあった。以下は2008年に聞いた話だ。
「今の不動産屋の下手な商売をみると、どうにかしたくなるよ。俺に500億円あったら、日本を面白く改造できるんだけどなあ。頭にいろいろアイデアがあるんだけど、面倒になった。寄る年波にも勝てないしね」
「日本の夜は面白くないんだ。俺は夜遊びは嫌いだけど、仕事のために夜の街を観察したよ。東京の繁華街は夜の8時以降は、飲み屋以外では人の流れが止まる。街はイベントを増やして、祝祭のような場をつくらなければダメなんだ。不動産の商売のコツは、人の流れと集まる場、そしてそこに金の落ちる仕組みを作ることだ」
「酒、うまい食い物、異性、華やかさ、最先端の流行をそろえる場に人は集まる。これは古今東西変わらない。外国の繁華街にはクラブ、カジノが必ずある。そういう「装置」を置いても、注意深くコントロールすれば街の風格を下品にせずにすむ。それに必ず付いてくる「闇の勢力」も経営者の断固たる意志があれば排除できる。実際に俺はそうした。サラリーマンのディベロッパーには知恵とリスクを取る度胸がないんだ」
「バブルの後で、日本全体がおかしくなった。特に東京以外は衰退がひどいものだ。土地が有効に利用されていないよ。農地や山林が補助金を吸い取っているのにほったらかされている。日本は美しい。世界でこれほどきれいな国はないよ。この国土をなぜ有効に使えないのかね。日本のモノ作りの強さが続くのはあと数年さ。その間に、知恵で価値をつくらなければならない。その一つは観光だね」
「リスクを取る人」をつぶしたことで何が起こったか?
けれども、彼は日本でビジネスはもうできないとも話した。
「俺はもう外資の侵略とも戦う気はないよ。他の誰かがやってくれ。俺は日本は好きだが、政府は嫌いだ。こんな国じゃまともな商売はできないさ。俺は国に見せしめのために捕まった。桃源社は普通の経済活動しかしていない。それを検察は国会の偽証という微罪にひっかけた。税金で不良債権を処理するために、「いけにえ」が必要だった。それに俺が選ばれたわけだ。桃源社の捜査費用は6億円だったそうだ。もっと役立つことに税金を使え。ばかばかしい」
「裁判所も役所も検察・警察も不動産のことを何も知らない。俺は150件の民事・刑事事件を抱えて、35人の弁護士を使った。不動産裁判では、なりたくもなかったのに、日本有数の権威になってしまった。(笑)不動産を取引したこともない裁判官や役人が、明治時代の取引を前提にした法律を使って判断する。不動産や建築のルールを整備しないと、まともな商売ができない。恣意的な「人治」が行われる。それなのに日本政府は外資に甘い。奴らはやりたい放題だ」
「愚かな役人に土地という大切なものを触らせちゃだめだ。日本は持てる力を使いこなしていない。君(筆者)は、俺を虚無的と言う。確かにそんな人間だけれど、日本の先行きは、一人の日本人として心配しているよ」
私は記者として経済ニュースの現場を見てきた。逮捕された金融コンサルタントの木村剛氏は雑誌時代の上司だったという印象的な経験もあった。多くの経済事件を調べると、当局の法適用の「恣意性」があり、また政策のミスが繰り返されていることを知った。そして正義を語る世論が「悪い奴を懲らしめろ」と熱くなり、検察・警察がそれに応えて荒っぽい捜査をすることが繰り返された。
すると経済活動の中で面白い人が年ごとに少なくなっていった。誰もリスクを積極的に取らず、萎縮するようになっていった。日本経済に活気がなくなっている一因はここにあるのかもしれない。
そうした経験から私は「正義を語る人」を警戒し、「悪人」とされても、その人に直接アプローチして判断するようにしている。リスクを取りすぎて「高転び」した、変な人ではあっても決して「悪人」とは言い切れなかった、佐佐木氏の姿を思い出しながら。
佐佐木氏のご冥福を祈る。
石井孝明
彼は商売で自分だけの「こだわり」があった。すべてを失った結果を見れば滑稽さも伴うが、その言葉を聞いてみよう。桃源社は08年時点で存続していた。巨額の負債はどうなったのかと私は聞いた。
「不思議に思うでしょ。あんなにたたかれたのに倒産してないんだから。いろいろとしがらみがあるから、つぶしたがらない人もいる。つぶすことになったら、私は見たことをあらいざらい話すつもりだから困る人もいるだろう。「どの程度負債があるのか」と、いつも聞かれるけど「霧の中」ということにしておいてください。ふっふっふっ」。
ライブドア社長の堀江貴文氏が世の中の注目を集めていた06年1月に、佐佐木氏と六本木ヒルズで会った。私は堀江氏に取材した時に「佐佐木さんと似た虚無的なところがある」と感想を抱き、佐佐木氏に伝えた。すると、こんな返事をした。
「ばかいっちゃいけないよ、一緒にしないでくれ。俺は自分の金でリスクを取って商売したんだ。今は人の金を利用しようとする奴が跋扈してる。堀江なんてその典型さ。彼は外資の金使って踊っただけ。ただし姿は違うけれども、俺のように「高転び」すると思うよ。この国では「出る杭は打たれる」ものさ。国や銀行、闇の世界にカネをむしり取られるだろうな」
「高転びする」という予想はその通りになり、その1週間後に堀江氏は逮捕された。
「日本人がババを引く形でバブルは崩壊する」
2006年に東京では地価が持ち直すミニバブルが起こっていた。周囲に建設中のビルの多かった東京・六本木ヒルズで、佐佐木氏は次のようなことを言った。2008年のサブプライムローンのショックを予見していたかのようだった。
「バブル最盛期から地価は3分の1で2000兆円が失われた。こんな金、日本にはないんだよ。今の時価の上昇は海外発のもので、金の流れが止まれば終わり。アメリカの不動産の加熱ぶりは危ういね。日本のバブルみたいだ。アメリカの市況が崩れたら終わる。それは近いよ。日本人がババ抜きのババを引く形で不動産バブルは崩壊するんじゃないかな」
以下は多少ゆがんだ陰謀論めいた考えではあるが、佐佐木氏は外国マネー主導の日本の不動産ビジネスを苦々しげに話していた。
「俺は「バブル」という言葉が嫌いだった。資産価値の拡大と言っていた。失われた富2000兆円は本当にもったいない。あの時代、日本人誰もが潤ったじゃないか。拡大にブレーキをかけるにしても、やり方はあった。政府は景気に急ブレーキをかける最悪の政策をやったんだ」
「不良債権はプロが見れば宝の山。おいしいところはみんな外資に取られた。俺のつくったビルも、開発した土地もだよ。悔しいね。3年前に面白いことがあった。ある外資が俺に日本の窓口になれと話を持ちかけてきた。京都の神社仏閣や老舗旅館の財務内容を調べ尽くして「安く買える」とね。俺は断った。日本人だからね。けれど金になりそうな不動産を詳細に調査しているのはたまげた。日本のダメな不動産屋たちは負けると思ったよ」
「バブルの処理なんて終わっていないさ。今の財政悪化はバブル処理に金をつぎ込んだ結果だろ。数年のうちに火をふくさ。ヒルズとか、汐留とか、最近の大規模の開発を見ると、高層ビルが城壁みたいに囲んで外資とその「手先」が事務所を構えている。植民地みたいだ。バブル敗戦の後で、ハゲタカの国際金融資本に「軍隊なき占領」を受けている。奴らは儲からなくなったら別の国に行ってしまうよ。日本人に何も残さないで」
「俺に500億円あったなら…日本を面白くできるのに」
彼は町づくりにもこだわりがあった。以下は2008年に聞いた話だ。
「今の不動産屋の下手な商売をみると、どうにかしたくなるよ。俺に500億円あったら、日本を面白く改造できるんだけどなあ。頭にいろいろアイデアがあるんだけど、面倒になった。寄る年波にも勝てないしね」
「日本の夜は面白くないんだ。俺は夜遊びは嫌いだけど、仕事のために夜の街を観察したよ。東京の繁華街は夜の8時以降は、飲み屋以外では人の流れが止まる。街はイベントを増やして、祝祭のような場をつくらなければダメなんだ。不動産の商売のコツは、人の流れと集まる場、そしてそこに金の落ちる仕組みを作ることだ」
「酒、うまい食い物、異性、華やかさ、最先端の流行をそろえる場に人は集まる。これは古今東西変わらない。外国の繁華街にはクラブ、カジノが必ずある。そういう「装置」を置いても、注意深くコントロールすれば街の風格を下品にせずにすむ。それに必ず付いてくる「闇の勢力」も経営者の断固たる意志があれば排除できる。実際に俺はそうした。サラリーマンのディベロッパーには知恵とリスクを取る度胸がないんだ」
「バブルの後で、日本全体がおかしくなった。特に東京以外は衰退がひどいものだ。土地が有効に利用されていないよ。農地や山林が補助金を吸い取っているのにほったらかされている。日本は美しい。世界でこれほどきれいな国はないよ。この国土をなぜ有効に使えないのかね。日本のモノ作りの強さが続くのはあと数年さ。その間に、知恵で価値をつくらなければならない。その一つは観光だね」
「リスクを取る人」をつぶしたことで何が起こったか?
けれども、彼は日本でビジネスはもうできないとも話した。
「俺はもう外資の侵略とも戦う気はないよ。他の誰かがやってくれ。俺は日本は好きだが、政府は嫌いだ。こんな国じゃまともな商売はできないさ。俺は国に見せしめのために捕まった。桃源社は普通の経済活動しかしていない。それを検察は国会の偽証という微罪にひっかけた。税金で不良債権を処理するために、「いけにえ」が必要だった。それに俺が選ばれたわけだ。桃源社の捜査費用は6億円だったそうだ。もっと役立つことに税金を使え。ばかばかしい」
「裁判所も役所も検察・警察も不動産のことを何も知らない。俺は150件の民事・刑事事件を抱えて、35人の弁護士を使った。不動産裁判では、なりたくもなかったのに、日本有数の権威になってしまった。(笑)不動産を取引したこともない裁判官や役人が、明治時代の取引を前提にした法律を使って判断する。不動産や建築のルールを整備しないと、まともな商売ができない。恣意的な「人治」が行われる。それなのに日本政府は外資に甘い。奴らはやりたい放題だ」
「愚かな役人に土地という大切なものを触らせちゃだめだ。日本は持てる力を使いこなしていない。君(筆者)は、俺を虚無的と言う。確かにそんな人間だけれど、日本の先行きは、一人の日本人として心配しているよ」
私は記者として経済ニュースの現場を見てきた。逮捕された金融コンサルタントの木村剛氏は雑誌時代の上司だったという印象的な経験もあった。多くの経済事件を調べると、当局の法適用の「恣意性」があり、また政策のミスが繰り返されていることを知った。そして正義を語る世論が「悪い奴を懲らしめろ」と熱くなり、検察・警察がそれに応えて荒っぽい捜査をすることが繰り返された。
すると経済活動の中で面白い人が年ごとに少なくなっていった。誰もリスクを積極的に取らず、萎縮するようになっていった。日本経済に活気がなくなっている一因はここにあるのかもしれない。
そうした経験から私は「正義を語る人」を警戒し、「悪人」とされても、その人に直接アプローチして判断するようにしている。リスクを取りすぎて「高転び」した、変な人ではあっても決して「悪人」とは言い切れなかった、佐佐木氏の姿を思い出しながら。
佐佐木氏のご冥福を祈る。
石井孝明
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